Takokimuraの短編

短編小説を不定期で投稿します。ジャンルはバラバラです。

大発明

 ここまで長い道のりだった。私が人生をかけて開発した装置が、ついに完成しようとしている。大学を卒業してから二十年余り、家の下に作った地下室に籠りきりで研究に没頭してきた。働きもせず夢を追いかける私に母は毎日食事を用意してくれたし、父が年老いて働けなくなってからは弟が一人で家計を支えてくれた。長年の家族の苦労を思うと胸が苦しくなる。本当に迷惑をかけたと思う。だが決して後悔はしていない。これは数々の犠牲を伴ってでも作り出されるべきものだったと信じているからだ。

 

 さて、これは自分の理想とする人生を疑似体験することができる装置だ。どういうことかというと、この装置が見せる世界の中では、受験や就職、恋愛のような重大な要素から、朝食のご飯粒の数まであらゆることが、コンピューターが自動で解析した自分の理想の通りになる。つまり一片の悔いもない一生を送れるのだ。体験にかかる時間はそう長くはないが、80年程度の時間を圧縮して体験させる、とでも言おうか。

 

 ついに今日、長年夢見てきたこの装置を完成させることができた。大発明であることは言うまでもない。すぐにでも世の中に発表して売り出したいところだが、まずは私が最初の体験者になってみるとしよう。どんなに素晴らしい体験だろうか、想像しただけで胸が高鳴る――

 

 男は自らの発明品に腰掛け、いくつかの機器を身に着けた後、体験時間を30分にセットして起動スイッチを押した。

 

 数分後、体験はまだ途中だったが、男の目には見慣れた地下室の光景が映っていた。

 

 

 

いかがでしたでしょうか(^^)

このブログでは一作目の短編になります。

おもしろかったという方がいれば、励みになりますので

コメントや読者登録など各種リアクションの方をよろしくお願いします(*^_^*)